それなのに、どうして今はこんなに離れちゃったんだろう。
不器用な二人の不器用な別れ。
今回はガッツリとネタバレを。 前回のを読んでない方は先にどうぞ。
前巻ラストでの恵麻のあの決定的な一言のあとの靖貴の行動。 とてもわかる。 最初は苦手だと思っていて、段々仲良くなってきて、あれ、もしかして、という気持ちが出てきてから。 本人の口から吐き出されてしまった残酷な言葉。 それだけで十分だ。本心なんて知らない。 恋愛経験が皆無な靖貴にとっては聞いたことがすべて。事実だろうから。
上がった分だけ落ちる。 ジェットコースターだってそうであるように、靖貴の気持ちも落差が大きすぎる分、心へのダメージが大きい。 防衛本能で会わなくなってしまうのも当然。 受験勉強という、隠れ蓑だってあるんだもの。
そんな終わり方をした前巻からの本作。始まりは最悪だ。 もう諦めと割り切りをしてしまった靖貴と、あの言葉を聞かれていたことすら微塵も思っていない恵麻。 靖貴は離れようとし、わからない恵麻はただただ待ち続ける。 そこに正解などはないのに。
年内唯一あったチャンス。冬休み前最後の日。 なぜとどうしての応酬。最後は物別れ。 もうしばらくないであろう機会は霞となってしまった。
二人の関係を救うのは友人の存在。 完全にリセットする方法だったり、考え方を変える手段だったり。 困難の解決への糸口だったり、雰囲気の打開だったり。 友人っていうのは、絶対に力になってくれる。 千差万別だけど、それでこそ人って感じがする。
ただ、超えても超えても待ち受けるのは困難ばかり。 素直になりたくてもなれないのは、根っからの性分かも。 だけれども、タイミングが悪いなんてもんじゃない。これは神様からの試練でしかなさそうだ。 悲しんでも、遅すぎる。 バレンタインもだめ。卒業式もだめ。 一体あとは何のイベントが残っているんだ。
そのあと、久美子と一緒にライブに参戦をする。 ここでは一区切り。 靖貴も言ってるとおり、出会い方が違えば別の物語が始まっていたと思う。 始まるどころか、完結していたかも。 それほどまでにウマが合う。 でも、きっと、それだけじゃうまく行かないのかもしれない。 相性がいいって一体なんだろう。
そう、最後は偶然だった。 たまたま、学割が切れていただけ。 それがなかったら、この物語は終わっていただろう。 結局、偶然という運命に支配されている。
学割をもらいに学校に行って、途中でカラオケに連行されて、帰り際に恵麻に会った。 文で書くと一行だけど、その中に策略があり、すれ違いがあり、偶然があった。 あまりにも濃密な時間。 そして、最後の二人きりの時間。
最初はぎこちない。 まるで出会った頃に戻ったよう。 いや、出会った頃よりも格段に心は離れている。 一度近づいたからだろうか。
話しを続けていくうちに、それぞれの現況が明らかになってくる。 恋・受験・引っ越し。 すべて、先に話して置きたかったこと。 ふたりとも似た者同士で、頑固。 頑固ってやっぱりよくないね、と笑ってしまった。 災いしか生んでない。
最後は別れ。結局何も解決しなかった。 連絡先の交換さえ。 残るのは、それぞれの生活と、それぞれの将来。 振り返らずに、あるき続ける。 それで、いいのかな。
別れて、それぞれ一人きり。
裏切られたと思っている靖貴は、離れた頃を思い出す。 今になって本心じゃないとわかっていても、想像が邪魔をして素直になれない。 相手のことを思うからこそ、自分は離れるべきだと。 でも、そこで頭が曇る。 そして、恵麻が言っていたことを全て思い出すと、該当する人に心当たりがあることに気がつく。 最後に、時間を戻さずとも、もう一度やり直せる方法があることに気がつく。
強かった恵麻は仲が良かった頃を思い出す。 あのときは良かったな。あのときは楽しかったな。 いい思い出ばっかり。いい思い出しかない。 こんな楽しかった半年をあっさりと終わらせてもよかったのかなって思った。 自分が恵麻になったかと錯覚するような。 もちろん、終わらせてはいけない。 終わらせたら後悔しか残らない。 そして、最後に、さらけ出す。
やっぱり二人は似た者同士だ。 頑固で、相手のことを思っていて、それでいて、自分に自身を持っていない。 でも、気がつく。 相手にとっての一番は自分だったんだって。
ここで出てくるのが、冒頭の引用部分。 どうして今はこんなに離れちゃったんだろう。
そのとおり。どうしてだろう。 思いつくことはいろいろあるけど、それを言うのは憚られちゃう。 だって、気がついたんだから。
ここから先は尊くて、恥ずかしくて、ニヤニヤしちゃって何度も読み返せない。 幸せを見るのは楽しいけど、幸せに至る過程を見るほうが楽しいと思っちゃう。
たった一つ。これだけは言いたい。 「君に恋をするなんて、ありえないはずだった」 そう、恋をするなんて、ありえなくはなかったんだ。