『夢見る男子は現実主義者』

打たれりゃ響く。殴られりゃそれだけ吹っ飛ぶ。嫌われたらもう近付かない。人間関係なんて普通そんなもんだろ

諦めてしまった諦めきれない気持ちと、手遅れながら気がつく気持ちの入れ違い。

途中からネタバレがあります。


この作品は、高嶺の花に恋することを諦めた主人公とその高嶺の花であるヒロインとの恋物語である。

恋を諦めるっていうのはいろんなきっかけがあると思う。 一番多いのは告白して振られてしまったときだろうか。 他の人との仲睦まじい姿を見せられた場合もありそう。 嫌いだと言ってるのを聞いてしまったパターンもあるのかも。

この作品では、いつもヒロインである夏川に好きだと言い続けている主人公、佐城が最初に登場する。 傍から見ればいつもの光景らしい。

ツンデレなのか、ツンデレじゃないのか。 どっちであろうと、関係ない。 夏川はいつも、その佐城からの「好き」を受け流している。 そう、中学からずっと。

いつもどおり夏川を追いかけていた佐城の近くにサッカーボールが飛んできて、 目の前を通り過ぎる。 大きな音を立てて壁にぶつかったサッカーボール。 その音や勢いで、佐城は思い出す。 これまでで目が眩んで忘れていた現実を。 そんな現実を取り戻し、我に返るわけだ。

それまでどおりじゃなくなった一方と それまでどおりじゃなくなったのを不審に思うもう一方。 その日の夜、もう一度邂逅する。

そして、転換点。

我に返った佐城にとってみると、一世一代の告白。 でも、夏川にとってみれば、これまで幾度となく繰り返されてきた告白。 もちろんこれまで通り、振られる。

これが、恋の終わり。想いを捨てきれぬまま恋が終わる。 そして、物語の始まり。

長い長い、両片思いの始まり。


いつもどおりであるのを期待していたヒロインの夏川は、 あの告白以後まったく自分への態度が変わった主人公の佐城が気になる。 目で追ったり、話しかけたり。

いろいろしているうちに、これまでのは日常だったのではなく、特別だったことに気がつく。 その「特別」に甘えていた可能性があったことも。

そこで、初めて自分の気持ちに気がつく。 そう、これまでさんざん好きだと言われ続けていたことで失っていた相手への気持ち。 でも、残念ながらもう相手の気持ちは離れてしまった可能性が高い。 タイミングは残酷だ。

押してもだめなら引いてみろという言葉がある。 これまでやってきてその言葉に気がつかなかった佐城の負けであったのだが、 実は、失ってから気がついた夏川の負けでもあるのではないか。

そう、勝ち目がないから、ここから先は撤退戦。 苦しい苦しい、撤退戦。

一方の佐城。 姉や友人を通した関係から様々な人と関わっていく。

例えば、風紀委員長だったり、ヒロインの友人だったり。 そうした人と関わることで始まるヒロインからの反応に一喜一憂しながらも、 これまで追いかけるだけで失っていたなにかを取り戻す。

でも、胸に秘めたヒロインへの思いは隠したまま。 交わらない両片思いは続く。


この作品は現時点で4巻まで出ているのだが、次々あたらしいキャラクターが登場し、人間関係とヒロインの気持ちはますます複雑になっていく。 特に、これまでヒロインだけを一途に追っていたせいで隠れていた佐城の評価はうなぎのぼりな状況もあり、関係性がますます、ね。

はやくもう一度告白すればいいのにと思うときもあるが、人の気持ちってそんなに単純じゃないわけで。 特に、お互いうわべだけの関係だったのが、相手を知っていくことでだんだんと深まっていくところは読み進めていくにつれ明らかになっていく。

本当にお前好きだったんか?という考えが頭をよぎるときもあるが、結局一目惚れってそんなものなのかもしれない。

個人的にはヒロインの友人である芦田が気になる。 めちゃくちゃいい子じゃん、という。 主人公への好感度高いけどヒロインに遠慮しているみたいな感じだったら、いつかバチバチのバトルしてほしい。

うーん、やっぱりぐずぐずなままいってほしいな。 そのほうが面白い気がする。