たった三ヶ月だけだったけど、一生分楽しかった
不治の病を患っていた燐に、智が最後にかけた言葉は自分の正直な気持ちだった。しかし、燐に拒絶され部屋から追い出される。ぽっかりと心に穴が空いたような様子で日常を過ごしていたある日、気がついたら三ヶ月前燐に出会った日に戻っていた。
この本は生き生きとした青春の話ではない。切なく、寂しい物語である。下セカを書いた作者の作品だ。
燐が智をバンドに誘い、更に周りの人を巻き込んで進んでいく怒涛の三ヶ月間。それを智はもう一度なぞるように過ごす。
バンドを作っていき、苦難を乗り越えながら文化祭で演奏するところまで、ずっとこのまま何事もなく終わって欲しいという考えが頭をよぎった。その方が皆が幸せだから。でも、そうはならない。何事もなく終わる物語なんて、何も面白くないものだ。
自分の意図してないことでタイムリープすることほど困惑することはないだろう。きっとタイムリープなんてしないだろうけど。
タイムリープする小説の主人公は、振る舞いがよく挙動不審になるような気がする。先を知っているからこそ、元通りに過ごさなくてはいけない、または変えなくてはいけないという思いがあるのだろうか。
智も一緒だ。二回目は燐に悲しい思いをされないように、そして自分が後悔しないようにという考えのもと、気持ちを伝えるところ以外は変えまいと変えまいとする。しかし、何か前回と違う雰囲気になってしまう。
作者はこの違う雰囲気というものを大切にしたかったのではないかと思う。智の心の葛藤が文字を通して伝わってくる。
もどかしいが、自分もこんな立場になってしまうとこのような態度になってしまうのは容易に頭に思い描くことができる。
一度目の三ヶ月と二度目の三ヶ月で大きく変わったのは最初に引用した部分。そこまで読んだのなら、燐の気持ちがわかる人もいるはずだ。
- 作者: 赤城大空
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/01/30
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