『カノジョの妹とキスをした。』

大きなケーキは譲れても、ゲームの一位は譲れても、この恋だけは、譲れない。

許されない恋と、許さざるを得ない想い。

カノジョの妹とキスをした。 (GA文庫)

カノジョの妹とキスをした。 (GA文庫)

  • 作者:海空りく
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫

途中からネタバレがあります。


そう、この作品は、タイトルで既にオチがついている。 途中にどんな展開を挟もうが、どう主人公が足掻こうが、本が終わるまでには彼女の妹とキスをするのである。

そう考えたとき、ある話を思い出した。 最近、といってもこれが言われ始めてからもう10年くらい経っているのではなかろうかという話。 「なろう系はタイトルで説明している」というもの。

今アニメでやっているものでも 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった』 『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』 『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』 などなど。 どれも原作を読んで面白いと思った作品だが、タイトルがあらすじのようなものになっていることは確かだ。

いわゆるなろう系は、状態を表していることが多いと思う。 転生したらスライムだったり、盾の勇者が成り上がったり。

それらと比較してみよう。 今回の『カノジョの妹とキスをした。』もタイトルで説明していることに変わりはない。 しかし、決定的な違いがある。 それは、状態ではなく、ある一度のタイミングを示しているということ。

他が線ならこれは点といえばいいのだろうか。 ある一度のタイミングがあり、それがピークであることは疑いの余地もない。

だからこそ、どうやって、どんな気持ちをもたせてそこに持っていくか。 そこにこの作品の良さが詰まっている。


前置きが長くなってしまったが、本題に入っていこう。 主人公である博道は目立つものがない、いわゆる一般人だ。 そう、かわいい彼女がいるということを除けば。

そんな博道の父親が、連れ子を連れた女性と再婚をする。 更に、再婚後にすぐにアメリカに向かうため、博道とその連れ子は二人暮らしをすることになる。

もちろん、よくある展開だ。 そして、そのよくある展開がそのまま続くとしたら。 当然、その連れ子が彼女の妹、時雨である。

それから、彼女のことが時雨にバレてしまい、からかわれる。 ただ、悪い子ではない時雨は、一緒に住んでいることを隠しつつ、いろいろありながらも、姉のために博道から離れていくようにする。

それが、いつも妹が我慢してきたことであり、諦めていたことである。 今回もそれをすればいい。 時雨はそう思い、いつもどおり自分を犠牲にしようとした。

―――だが、できなかった。 それまで博道と過ごしてきた時間、博道の人柄やふるまいに触れていたことで、きっと変わってしまったのだろう。 自分を犠牲にすることをやめ、主人公とキスをする。

引用した一文も重い。 これは、時雨がいつもと違う一歩を踏み出したもの。 譲れないものができた瞬間である。

こう来たかと思ってしまった。 ここまで盛り上げて、ここまで生い立ちを明らかにして、ここまで紡いできた。 それがすべて無と帰するようなキス。 どうやっても言い訳が立たない。 完全に不純である。

そして、ここで1巻が終わる。

あらすじやあとがきで言われている"不"純愛ラブコメ。 本当にその肩書がぴったりだと思う。

この作品、2巻以降も続いている。 自分が前に話たピークという目線でいけば、あとは尻すぼみになるだけ。

嬉しいことに、そうではなかった。

2巻は本当にドロドロである。 堕ちるという言葉が博道に日々刻まれているのではないか。 純愛とはどちらなのかがわからなくなってしまう。 そのくらい、ドロドロしている。

描写が多いからなのかもしれないが、時雨が救われてほしい、博道と時雨が結ばれてほしいと願ってしまった。 先に出会っていたというだけ(というのは少し申し訳ないが)で博道とくっついている彼女、いや、カノジョ。 そんなカノジョに負けないでほしいと願ってしまった。

次も目が離せない。