先週の日曜日。

普段であれば、土曜日に夜遅くまで起きている影響で、毎週太陽がほぼ真上に来るくらいまでベッドに吸い込まれているのだが、その日は違っていた。

平日であれば通勤ラッシュの残像が残っているような時間帯。 お腹まで響くような重低音で目が覚めた。 最初はどこかで工事でもしているのかと思ったが、近づいたり遠ざかったり、工事では考えられないような音の響き方をしている。

眠たい目を擦って窓から外を見たら、大勢の人が軽自動車くらいの幅がある物体を持ち上げていた。

神輿だ。

それを見た瞬間、先日回覧板と一緒にポストに入っていたお祭りの集金のお願いのチラシが頭をよぎった。

そのお祭りは、地域で毎年行われているお祭りで、集金のチラシは回すけれどもお金を出すのは必須というわけではないが、お金を出さなければお祭りの屋台で使えるチケットがもらえない、いわゆるPPV(ペイパービュー)のようなものだった。

今年引っ越したばかりだったのだが、前まで住んでいたところではこういった行事はなかったので、新鮮な雰囲気を感じていたわけである。

予定が読めなかったこともあり、自分は断っていたのだが、外を再度見たら小さな子どもたちが楽しそうにしていた。


自分はラブコメが好きなのでよく読んでいるのだが、出てくるイベントの数で順位をつけるとすれば、間違いなく上位5番以内にお祭りは入ってくると思う。

春に知り合い、梅雨に相合い傘で一緒に帰り、夏の合宿などで急接近して、告白が花火の音で掻き消される。 ド定番の流れである。

もちろん毎回告白があるわけではなく、花火を見ながら「花火よりも花火を楽しそうに見る君がとても美しかった」で終わったり、どちらかが迷子になって探しているうちにひと気の少ないところで相手を見つけると同時に花火が上がったり、一緒にお祭りには行けなかったけど買ってきた線香花火を庭で二人きりで楽しんだり。

花火が絡まなくても、屋台の射的でかっこよくできるところを見せつけつつ屋台のおっさんをビビらせたり、金魚すくいができなくてお金をたくさん使った挙げ句お情けで2匹金魚をもらったり、屋台のおっさんにカップルじゃないのにカップルに間違われて真っ赤になって否定したり。 変電所を爆発させてお祭りを止めるなんてこともあっただろうか。

三角関係のラブコメであれば、分岐点にもよく使われたりする。

迷子になったと友だちから連絡をもらって、もうひとりのヒロインと歩いていたのを「ごめん」と言ってから握っていた手を振りほどいて迷子になった子を探しに行ったり、一世一代の告白を花火の音で掻き消されちゃったけど、実は隠れて覗いていたもうひとりのヒロインには聞こえてしまって脇目も振らず走り去ったり。

いろいろ読みすぎて具体例を挙げられないが、きっと今挙げた中にも1つや2つ思い当たるエピソードはあると思う。

空想上の世界では、お祭りというのは必ず行われているもので、そこではみんなが楽しそうに過ごしているわけである。


現実に戻ろう。

もちろん今となってはお祭りに行く機会はほぼほぼないのだが、小学校の頃は家の近くでお祭りがあったので、家族で行った思い出がある。

高いねーと言いながら屋台の綿あめやりんご飴を買ってもらったりしたことは覚えている。 お面は買っても意味ないでしょと言われ、買ってもらえなかった。 今思えば言うとおりなのだが、昔は不満だらけだった。

他にも、住んでいた市レベルで開催されたお祭りもあった。 お祭りの期間は中央の道路の通行制限が行われ、大きなねぶたが運行されたりするくらいのものである。

人でごった返していた記憶しかなく、今となっては本当に遠い昔の出来事である。 皆マスクなんてしていなかったが、皆笑顔だった気がする。

そう、お祭りというものは大小どうであれ、参加する人が皆楽しく過ごそうとするものだったと思う。


さて、最近はいろんなものを知りすぎて、お祭りを素直に楽しめなくなった気がする。 高校や大学の文化祭みたいなもので売るものの原価を知ってしまったり、 実は当たりくじが入ってない祭りくじの屋台への突撃だったり。

知らないことが多いほうが楽しめるというのは、なんと皮肉なことであろうか。 好奇心というのは情報を得ることで満たされていくものなのに、満たされていけばいくほど楽しめなくなる。

そういった楽しさは忘れていいものなのだろうか。 どうにか両立できる方法などはないだろうか。

少し考えたが、答えは出なかった。 もちろん、それは世の中が答えがある問題だけではないという摂理に従えば当然のことなのだが。

答えがない問題にざっくりとした自分だけの回答をつけていくことが、勉強するということなのかもしれない。 勉強し続けることは、重要である。

喧騒や重低音が遠ざかる中、もう一度ベッドに潜り込みながら、そんなことを考えていた。


最後に一つだけ、太鼓の音はお腹に響くので人が寝ていそうな時間帯は控えてもらいたい。 まあ、10時になっても寝ている人なんて端から対象外なのかもしれないが。